雉(きじ)の偵察・・・
126 とんと帰らぬ ワカヒコを
タカミムスヒは 怪しんで
無名(ななし)の 雉を 遣(つか)わして
どんな様子か 探らせる
127 雉(きじ)は 急いで 舞い降りて
アメワカヒコの 門の前
桂(かつら)の枝に 止まりきて
中の様子を 探ります
128 天探女(アマノサグメ) が 雉(きじ)を見つけ
アメワカヒコに 告げ口す
「怪しい鳥が 桂の木
止まって こちらを 見ています」
129 聞くや ワカヒコ 弓矢取り
雉を目がけて 狙い射る
矢は雉の胸 突き破り
天上にまで 飛んでいき
ワカヒコの死・・・
130 こともあろうに 天上の
タカミムスヒの 前に届く
タカミムスヒは びっくりし
その矢を取って 申します
131 「この矢は以前 ワカヒコに
与えた矢に 相違ない
矢に血がついて いる訳は
国つ神たちに 使ったのか」
132 タカミムスヒは その矢をば
下の国へと 投げ下ろす
ちょうど その時 ワカヒコは
新嘗(にいなめ) のため 仰向(あおむ)けに
133 そのワカヒコの 胸の上
その矢がズブリ 刺さります
ワカヒコ その場で 即死する
いわゆる「返り矢」 罰(バチ) 当 る
解説・・・
基本的には、日本書紀も、古事記と、ほぼ同じストーリーです。
葬式の様子・・・
134 ワカヒコの妻 シタデルヒメ
泣きわめく声 天に達す
ワカヒコの父 クニタマは
息子の死をば 察知する
135 それで疾風(はやて)を 遣わして
死体を天に 上げさせる
それから喪屋(もや)を 造らせて
息子の葬式 始めます
136 配膳(はいぜん)係を 雁(かり)にさせ
掃除(そうじ)係も 雁にさせ
米搗(こめつ)き係を 雀(すずめ)にさせ
八日八夜(ようかはちや)の 式をする
解説・・・
日本書紀では、天上に遺体を戻して行いますが、
古事記では、地上に親戚一同が降りて来て行います。
アジスキの話・・・
137 その葬式に 味耜高(アジスキタカ)
彦根神(ヒコネノカミ) が やってきた
彼はワカヒコの 友達で
喪(も )を 弔(とむら)いに 上って来た
138 ところが 彼は 顔かたち
死んだワカヒコに そっくりで
それでワカヒコの 親族たち
ワカヒコが来たと 間違える
139 「ワカヒコは まだ 生きていた」
皆 喜んで 迎え入れ
彼の衣服を 触ったり
泣いて笑って 取り囲む
140 アジスキこれに 激怒して
「友達だからと 遠くから
上って来たのに 死んだ人と
間違えられて 腹が立つ」
141 言うや 剣を 抜き放ち
喪屋(もや)を ズタズタに 切り倒す
材木 天から 地に落ちて
美濃(みの)の喪山(もやま)に なったとさ
解説・・・
基本的には、日本書紀も、古事記と、ほぼ同じストーリーです。